『ナースコール』――原題は「HELDIN(ヒロイン)」

監督: ペトラ・フォルペ
上映年: 2025年
製作国: スイス、ドイツ
主要俳優: レオニー・ベネシュ、ソニア・リーゼン、アリレザ・バイラム、セルマ・ジャマールアルディーン
評価: ★★★★½

感想

スイス興行成績4週連続第1位。
第98回アカデミー賞 国際長編映画賞ショートリスト選出。
その評価にも十分うなずける、素晴らしい作品でした。

本作の企画は、自身も病院で働いた経験を持つペトラ・フォルペ監督が、あるドイツ人看護師の著作に目を留めたことから始まったそうです。そこから実際の病院で入念なリサーチを重ね、このうえなく濃密なスリルと臨場感を持つ映画として結実させました。

主演のレオニー・ベネシュも本当に見事でした。
役作りのために州立病院でのインターンシップを修了し、医療機器の扱いや薬品の所作まで身につけて本作に臨んだとのことですが、その積み重ねがすべて画面に出ています。忙しさに追われ、次から次へと呼ばれ、それでも患者一人ひとりに向き合おうとする。張りつめた緊張感の中で、ぎりぎりのところで気持ちを保ち続ける姿があまりに自然で、演技を見ているというより、ひとりの看護師の現場に立ち会っているような感覚になりました。
この映画の素晴らしさは数多くありますが、まず彼女の存在そのものが作品の強さになっていると思います。

加えて、『ありふれた教室』のユーディット・カウフマンによる滑らかな移動ショットを多用した撮影、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』『セプテンバー5』のハンスヨルク・ヴァイスブリッヒによるテンポの良い編集、美術、音楽を含めたスタッフワークも非常に優れていました。あらゆる細部のリアリティを徹底的に追求しながら、スリルと人間ドラマがひとつの流れとして無理なく結びついている。その完成度の高さには唸らされます。

最後までひとときも目が離せない、まさに社会派ヒューマンドラマでした。
本作のドイツ語原題は「HELDIN(ヒロイン)」ですが、ここで描かれるのは特別な誰かではなく、日々ぎりぎりの現場で踏ん張っている人たちです。だからこそ強く胸に迫るのだと思います。フォルペ監督の願いが込められたラストシーンも素晴らしく、観終わったあとに残る共感と余韻の深さには、誰もが心を揺さぶられるはずです。

スイスでは2030年までに看護師3万人が不足するといわれ、就職後4年で36%が離職するともいわれています。看護師不足はスイスだけの問題ではなく、世界的な課題です。WHOの予想でも、2030年までに1300万人が不足するとされています。
本作はそうした現実を背景に持ちながらも、ただ問題提起をするだけの映画ではありません。ひとりの看護師の一夜を通して、人を支える仕事の重さと尊さ、そしてその限界までも真正面から映し出しています。

この映画に論評など必要ありません。
是非ご覧になっていただきたい映画です。

あらすじ・概要

人手不足の州立病院。
看護師フロリアは、同僚の急な欠勤により、過酷なシフトを任されることになります。次々に鳴るナースコール、患者への対応、同僚や医師との連携、終わることのない業務。その一つひとつに追われながらも、フロリアは懸命に持ち場を守ろうとします。

しかし、極限状態のなかで、少しずつほころびが生まれていきます。
本作は、医療現場の逼迫した現実を描くと同時に、その場で働く人間の感情や責任、そして尊厳を静かに、しかし鋭く描いた作品です。

こんな人におすすめ

医療現場をリアルに描いた作品を観たい人におすすめです。
また、派手な展開よりも、緊張感と人間ドラマで引き込む映画が好きな人にも強く薦めたい一本です。

社会の問題を扱いながら、それを説明的に押しつけるのではなく、ひとりの人物を通して体感させる映画が好きな人にも響くと思います。
そして何より、俳優の演技に圧倒される作品を観たい人には是非観てほしいです。主演レオニー・ベネシュの演技は本当に素晴らしく、この映画の価値を何段階も引き上げていたと思います。

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